■兄弟で家一軒
誰が考えたのか、以前、相続人4人で全財産を4分の1ずつ相続するという、なんとも無責任な遺産分割を行った家族がいました。
その相続財産の殆どは不動産であって、きっと兄弟は永久に仲良くしていくものだと考えてそのような財産の分割をしたのでしょうが、その後兄弟の一人の家計に大きな変化が表れ、自分の持分を売却したいと言い出しました。
しかし、不動産を共有名義で登記している場合には、そのうちの一人が売却できるのは共有持分の四分の一だけで、売却後は、他人と残りの兄弟の共有になってしまいます。
結局、売却するまでにかなりの時間を要するとともに、兄弟間の関係にも亀裂を残すことになってしまいました。
つまり、兄弟で一つの財産を共有するということは、事務的には最も簡単な相続時の対処法ですが、将来必ずもめごとの種が残ることは必至なのです。
そういう意味で、この相続を指導した専門家のした仕事は無責任なものであったと言わざるを得ません。
サラリーマン世帯では、不動産が自宅だけということが殆どでしょう。お父さんが亡くなり残された不動産を誰が相続するかとなった時にも、他に財産がなければ、妻と子供で共有することが多いのではないかと思われます。
しかし、財産の多寡にかかわらず、財産の共有化は絶対に避けるべきなのです。将来、子供達に配偶者が加わり、さらにまた子供が生まれると、不動産の所有関係はどんどん複雑になってしまうのです。
円満な相続をするコツは、相続の時点で財産の帰属を明確にし、共有関係を排除することです。
それぞれの家計の事情は必ず変化します。その時、自分の意志だけで財産を処分する権利を持たせてあげることはとても重要なことなのです。
■家の代わりにお金をもらう
自宅不動産のように、分割になじまない財産を特定の相続人が取得するかわりに、他の相続人に対して現金を提供するという方法があります。
この現金は、相続財産である必要はなく、自宅を相続した相続人が銀行から借金をして調達してもかまいません。
このような相続財産の分割の方法を代償分割というのですが、不動産以外に目ぼしい財産が見当たらないという時に、借金をしてまで相続するぐらいなら、やはり共有でということになってしまいます。
しかし、長い目で見れば、相続財産の分割時に清算をすませておくことが、良好な家族関係を継続させることにつながるのです。一時の苦労を惜しんではならないのです。
また、家族の平安を願うのなら、不動産に見合うだけの預貯金や生命保険契約を残してあげたいものです。
そうすることで、一人は不動産を相続する代わりに母親の面倒をみる。他の兄弟は、その他の財産を相続するというように考えてあげれば、それだけでも子供達はお父さんの優しい気持ちを感じることができて、これからも兄弟仲良く暮らしていけるようになるのです。
もともとお父さんが作った財産を、子供が当てにしてはいけないのですが、残すものがあるのであれば、家族に対するその程度の思いやりは必要なのではないでしょうか。