人が亡くなると、その人のそれまでのすべての活動が終了し、その人のモノや足跡が残ります。
偉業を成し遂げたわけではなくても、亡くなったその人の遺品は、たとえ少しのものであったとしても、故人の意思に従って行く先が決められ、また、過去の功績は、思い出話として人の心の中に残り続けます。
残されたモノの行き先がどのようになるかは、本来それを保有していた人が決めるべきものです。
もっとも、残念ながら多くの場合、故人は明確な意思を表示せずに旅立つために、遺族にとっては、大切なものがどこに保管されているかも分からないことのほうが多いのが現実です。
また、そもそも何が大切なものかも知らされないまま、遺族は残されたモノを捨てるに捨てられないでいる場合もあるのです。
■相続の「誰」
人が亡くなった場合、我が国の法律は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。・・・」と定めています(民法896条)。
つまり、亡くなった人(被相続人。これからもこう表現します。)の子や配偶者、または、その夫婦に子がいない場合には父母や兄弟などは、否応なく相続人になってしまいます。
民法の文言では、権利義務を「承継することができる・・」という表現ではなくあえて「承継する・・」と言い切っています。この民法の規定によって、相続人は有無を言わさず財産を承継させられてしまうのです。
ところで、民法の文言はともかく、相続の実務で重要なのは、そもそも被相続人の相続人が誰であるのかを知ることなのです。
複雑な事案になると、戸籍を追いかけていくと相続人が十数人、被相続人と面識もなく、相続手続きの中で初めて、自分が相続人であることを知るというようなことも珍しいことではありません。
このように、世の中には、相続人が被相続人の配偶者と子供だけというケースだけではないことは記憶しておかなければなりません。
権利義務の「一切」を引き継ぐ相続人を探し当てることは相続手続きのメインイベントの一つなのです。
■相続の「何を」
次に、法律が言うところの被相続人の財産に属した「一切の」権利義務を相続人は承継するという意味ですが、相続人になってしまうと、被相続人が残した不動産や郵便貯金などに対する権利だけでなく、人から借りたお金を返済する義務をも引き継ぐことになります。
ふつう、相続というと、何か棚ボタでひと儲けすることを想像する人もいるかもしれません。しかし、民法が規定している「一切の権利義務を引き継ぐ」ということは、被相続人が生前行ってきた、ありとあらゆる営みで生じた権利義務の精算を書類で行っていかなければならないということを意味するのです。
口頭で、「はいわかりました。」ですまないのが法律です。相続人は、被相続人が何を残し、どのような権利義務が引き継がれたのかを、手探りの中で整理をしなければなりません。
たんすの中から国債が出てきて喜んだ反面、それ以上の金額を友人からお金を借りていたことが判明した、などということも珍しくはないのです。