父親が若くして亡くなるような悲しいケースには、できるなら遭遇したくはないものです。しかし、人の命がいつ終わるかは誰にも分かりません。
子供がまだ小さいのに、これからの生活をどうするのか、できる限りの支援をしながら見守るしかありません。
ところで、相続において、遺族の年齢で財産の承継に制約を受けることはありません。小学生であろうと、八十歳の高齢者であろうと、相続人になる資格はあるのです。
■まだ見ぬ命
相続を規律する民法は、「私権の享有は、出生に始まる。」と規定しています。つまり、未だ生まれていない胎児は一人前の人としての権利主体とされていないのです。
したがって、例えば、自動車の購入をこれから生まれてくる子の名前ですることはできません。法律上、胎児は権利主体になれないからです。
ところが、驚くことに、相続の場合には、未だ出生していない胎児にも相続権は認められています。
民法には、「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。」とあります。
つまり、民法の大原則である、出生に始まるさまざまな法律行為をすることが出来る状態が、こと相続においてはお腹の中にいる時から始まっていることになります。
ここから、亡くなったご主人の妻が妊娠中の場合、ご主人の残した財産をどうやって相続すればいいのかという疑問が生まれます。未だお腹の中にいる子に遺産分割の当事者になることは現実問題として困難であるからです。
胎児にどうやって相続させるかについて、民法は明らかにしていません。そこで実務的な対応としては、胎児が生まれるまでは遺産分割は行わないということにするしかありません。
■未成年者でも相続人
父親の残した財産を、小学生のような未成年者が相続することは、胎児であっても相続人になれるわけですから当然可能です。
しかし、未成年者が相続人となると、実務的に手続きが複雑になることは予想されます。
そもそも、我が国の民法では「年齢20歳をもって、成年とする。」とあり、未成年者が各種の契約をする場合には、法定代理人が代わってこれを行うことになっています。
仮に、未成年者が単独で契約を行ったとしても、後で取り消される可能性があるため、遺産分割のような重要な法律行為には単独では参加できないのです。
さらに、実務的には、相続人に未成年者がいる場合には、地元の家庭裁判所において、特別代理人の選任をして貰う必要が生じます。
親子の関係であっても、相続はそれぞれの利害が相反しますので、相続人に未成年者がいる場合、相続の当事者以外の特別代理人が必要になるのです。
ただし、未成年者であっても、既に婚姻している場合は、成年とみなされますので、このような手続きは必要ありません。