父親が亡くなり、四十九日も過ぎたので、そろそろ父親名義の自宅や預貯金の配分を決めなければならないと思い立ったとしましょう。
書店に行って相続手続きの書籍を購入して勉強を始めたものの、一生に何度とある経験ではないため、何が重要なのかがすぐには分かりません。
些細なことも重要に思え、なかなか手続が終了しないという相談を受けることがあります。
■名義変更が必要か否か
自宅の金庫の中にある金銭や父親が大切にしていた時計などは、相続人の間でどのように配分しようとも、第三者の了解をとる必要はありません。相続人の間で自由にやり取りすればいいのです。
しかし、父親名義の自宅の登記を相続人に変える場合、登記手続きというハードルが待ち構えています。
また、不動産だけに限らず、郵便局やその他の金融機関に預けてある預貯金、上場株式、ゴルフの会員権や電話の名義変更の場合にも、それぞれの会社によって名義変更の手続きや書式が異なります。
相続を初めて経験する人にとっては、未知の領域で苦労を背負いこむことにもなってしまうのです。
遺産分割協議書は、これらの財産の相続人の間の帰属先を決める書類であるため、当人同士が納得すればどのような形式であっても問題はないはずです。
しかし、不動産登記や、対会社との関係で名義変更が必要な財産については、要求されたとおりの名義変更手続に応じる必要があります。
特に不動産は、法務局という一般人がめったに訪れることのない役所に申請することとなり、手続が間違っていたとしても、窓口で事細かに手続を教えてはくれません。
購入した書籍に書かれているとおりに名義変更の書類を書いたつもりなのに、何度もやり直しを求められるということも珍しくはありません。
「餅は餅屋」というように、不動産であればその道の専門家に頼めばあっという間に片付いてしまうものを、専門家との接点がないために、専門家に依頼するということすら思いつかないということもあるのです。
■遺産分割協議書の要件
遺産分割協議書という書類は、役所や金融機関に対し、被相続人の財産を相続人に名義変更するための重要な書類であるため、名義変更を申請された側としては、それが違法なものであると受け付けるわけにはいきません。
相続人全員から印鑑証明をもらい、分割協議書に全員の実印を押印していたとしても、不動産の記載方法が違っていたり、相続人の一人が未成年であるあるために、代理人の選任が必要であったりと、分割協議書の要件に合致しないための門前払いの例はたくさんあります。
中には、相続人が海外に赴任しているために、持ち回りで遺産分割協議書のやり取りをしている間に数カ月がたってしまったなどということも起こるのです。
もともと、遺産分割協議書という財産の帰属を決める重要な書類を、経験の少ない相続人に負わせるというのは酷な話なのですが、相続人には何もせずにほったらかす権利もある反面、その結果後々の大きなトラブルの元を抱えてしまうものなのです。