■使えない遺言
人というものは、いつか寿命が尽きるものです。その時がいつであるかは神のみぞ知るというところでしょうが、その時のために準備万端整えているという人はあまりいないようです。
特に財産の処分に関して、明確な意思表示をしているケースがまれであるために、相続人間で財産処分に関してもめることも珍しくはありません。
財産を残した人にとっては、誰が財産を引き継ごうが知ったことではないのかもしれませんが、いきなりもめごとの渦中に放り込まれる相続人にとっては、たまったものではありません。
自分の財産をだれに譲るかは、それを残した人の意思が全てに優先します。少なくとも、相続人がとやかく口をはさむ事柄ではありません。しかし、財産を残される側としては、残した人の意思だけでも知りたいものです。
そこで、遺言ということになるのですが、実務的には役に立たないケースがあります。
特に、相続財産中で最も金額の張る不動産を遺言書に表示するとき、せっかくそれを譲る人を特定しているにも関わらず、不動産の登記上の所在地ではなく、住民票上の住所を記載しているようなケースがよくみられます。
有効に作成された遺言書であって、不動産の登記をその遺言書を使って行おうとしたとき、住民票上の住所が記載されているだけだと物件の特定ができないために、相続登記ができません。
その結果、遺言書が残されているにも関わらず、改めて相続人全員から実印をもらって、その不動産に関する遺産分割協議書を作成しなければならないことになるのです。
遺産分割協議というのは相続人間の話し合いですから、遺言の趣旨とは異なる事態が生じてしまうことも多いのです。
■公正証書遺言で即登記
故人が作成した自筆の遺言書は家庭裁判所の検認を受けて、相続人全員に開示されるため、記載されている内容に従って財産を配分すればいいのです。
しかし、先ほどの不動産のように、相続人に権利を移転させるための事務手続きが必要な財産については、自筆の遺言書ではその手続が完結できないケースが生じます。
そこで、財産の分配を、財産を残した人の意思どおりに行うためには、自筆の遺言ではなく公正証書による遺言の作成が有効な手段となります。
公正証書は裁判所の判決を得なくても執行手続きが可能になる強力な書類です。また、公正証書の作成には、公証人という法律の専門家を利用することとなりますので、後々相続人の間で改めて遺産分割を作成しなおさなければならないようなことは避けられます。
公正証書で作成された遺言書を相続の事務手続に使うことで、いちいち親族から実印を押してもらう必要がないということは、財産をもらう人にとってはとても気が楽なのです。
親族とは言え、何かを頼まなければならないと考えるだけでも、気が滅入ものです。それがお金にまつわることであれば、なおさら面倒に感じるものなのです。
公正証書遺言を作成する少しばかりの時間と、数万円のコストで、親族間の争いの芽を摘むことができるのであれば安いものです。積極的にお客様にも勧めてみてください。