■誰の財産か
相続において、残された財産が誰のものであるかということを決めるのは案外大変です。
奥さんが家計の中からコツコツと貯めた「へそくり」が相続財産になるのか、それとも奥さん固有の財産になるのかということで税務署と争いが生じたことがあります。
奥さんの認識としては、夫が稼いできた所得の中から、自分の努力で貯蓄したのであるから、自分のものであると主張したのですが、結果は夫の財産であると認定されてしまいました。
この場合の決め手となったのは、奥さんが専業主婦であり、結婚してからパートにも出ておらず、所得がなかった点でした。
税務署の見解によれば、「へそくり」は夫の固有の財産を妻が一時的に預かっていただけであり、その帰属は夫であるということなのです。
仮に、この奥さんが、正々堂々と自分の貯金口座にこのへそくりを貯金し、実際に費消していたとしたら、贈与の時効ということで税務判断は変わっていたかもしれません。
やはり「へそくり」といえども、確かに夫からもらったものであるという証拠を残すべきということになるのですが、それなら「へそくり」にはならないので痛し痒しです。
■保険金は受取人の財産
夫が妻を受取人として生命保険契約を締結し、不幸にして保険事故が起こってしまったケースでは、妻に保険金が支払われます。
この妻に支払われる保険金は、妻の固有の財産であり、夫が残した財産ではありません。
ところが、相続税では、夫が残したその他の財産と同じく、一定の金額を超えた保険金については、相続税を課すこととなっているのです。
これを、「みなし相続財産」といい、保険金以外にも会社から妻に支払われる死亡退職金なども、相続税の課税対象となります。
夫の死亡に基づいて支払われたものであったとしても相続財産ではないのですから課税に疑問が残るでしょうが、他の財産との公平を考えての措置ということになっています。
もちろん相続税の対象とはなるものの、妻が受け取った保険金は本来妻自身の財産ですから、他の親族に分割することも、夫が遺言書で保険金の受取人を指定する必要もないのです。
■代償分割など財源にも
保険のありがたい点は、相続財産が不動産ばかりで売却しづらいものばかりであるような場合に、計画立てて相続税の納税資金を用意することができることです。
また、相続税が発生しないケースでも、残された財産が自宅だけというように、法定相続どおりの分割がしにくい場合、その相続財産を親族に分割する代わりに金銭で賄うという方法があります。
これを代償分割というのですが、保険契約に基づいて、妻が受け取った保険金の中から、他の相続人に分割するべき財産評価額分を支払うことで分割協議を終了させることができます。
財産構成から考えて、分割することに困難が予想される場合、財産を残す側としては、保険金を使って代償分割の道を残してあげるような配慮をすることで、円満な相続ができるようにしてあげたいものです。