一物三価、この不可思議な世界

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■モノの評価

私が以前、相続税の申告を受任したクライアントが、錦鯉を何匹か飼っていました。庭の池で泳ぐ鯉たちは、いわゆるブランド物で、有名デパートで相当な金額で購入したようでしたが、結局調査官は鯉たちを相続税の対象としませんでした。

確かに、高額といえども鯉は鯉。寿命には限りがありますし、購入した瞬間に車以上に値段が大幅に下がるということで、評価しようがないということなのでしょう。

相続税や贈与税の世界ではモノの値段というものは、一般の人の発想とは異なっていることがままあるのです。

特に、不動産や株式のような金額の張る財産ほど、その差異が大きくなり、一物三価になるようなことが起こるのです。

不動産など、固定資産税の評価額、路線価、不動産業者による査定価格というように、同じ財産にいくつも値段がついており、親から子へ所有権を移転するときの価格をどれにすればいいのか、判断に迷うところです。

■家一軒、半値以下

相続税や贈与税を計算するときの財産評価は専門家でも正解を算出するのはそう簡単ではありません。

通常、相場が3000円程度の不動産をいくらで評価するかは、その不動産の所在地で変わります。

その上、建物の評価は固定資産税の評価額になるのですが、第三者に賃貸しているケースでは土地と建物を合わせて、相場の半分以下になる場合がほとんどです。

また、相続や贈与の直前に、建物を大幅にリフォームしても、建物の固定資産税評価額が上がらないため、親族に引き継ぐ予定があるなら、リフォームしてからにするというのが有利になります。

自宅用の建物で、お風呂がジェットバスになり、キッチンが最新式のものになっても、資産の経済的な価値は上昇するものの税金面の評価はアップしないのです。

■所得と財産の移転

年間、300万円の家賃を稼ぐ賃貸アパートを自分の土地の上に建てるとなると、土地の大きさにもよりますが東京地区で2000万円程度です。

しかし、建物にプラス土地も購入するとなると、さらに2000万円以上の土地代金が必要となり、土地建物合わせて4000万円以上必要になるはずです。

仮に、お父さんが自己資金で自分の土地の上にこのようなアパートを建築し、家賃が安定してきたところで、ご子息や奥様に、建物だけを贈与したとすればどうなるでしょう。

アパートの建築費は2000万円、しかし、賃貸建物であるため、贈与税対象となる評価額は、貸家の評価となるため、おそらく800万円程度となります。

800万円の贈与となると、一回の贈与であれば151万円の贈与税。2年に分けて2分の1ずつの贈与となると、1回あたり400万円の贈与で33万5千円、2年間で67万円の贈与税と、貰える家賃300万円に比して負担感はありません。

現金で2000万円を贈与しても浪費されるだけなら、賃貸建物に変えて、家賃という所得を贈与するという発想も必要です。もちろん子供に対する最高の贈与は教育であることは今も昔も変わりはありませんが。

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