遺言書を実際にはどの程度の人が書いておられるのでしょうか。
具体的な統計資料を見たことはありませんが、相続の手続に関与することが多い専門家の肌感覚からすれば、遺言書を残す人はほとんどいないというのが実感です。
遺言書は自分の財産を誰に残すのかという意思表示の書類です。私たち日本人は、自分の意思をはっきり言わない傾向が強く、特に高齢者になると、子どもに遠慮してしまう傾向が強くなるようです。
公正証書で遺言
遺言書は自分の財産の配分方法について、最後の意思表示を行う書類です。
従って、どのような配分にするかを身内に相談する必要もなく、こっそり自分ひとりで作成すればいいのです。
しかし、子どものことを考えると、皆が幸せになってもらいたいと思うあまり、自分の財産については子どもたちで話し合ってくれればいいと考えてしまうようです。
しかし、親の思いとは裏腹に、子どもの思いは異なります。自分がこれからも親の世話をするのだから、自分が家をもらって当然であるとか、預貯金の配分は自分が多いに決まっている、というように勝手な思い込みをしてしまうこともあります。
そこで、遺言で将来のもめ事を回避するべく、遺言書を作成するということになるのですが、最初に口火を切るのは、どうも子どもであることが多いようです。
遺言書の効力を完全にするために、自筆で作成するよりも、街の公証人役場で作成する方も増えているようです。公正証書遺言であれば、紛失しても原本が公証人役場に保管されているため、紛失のリスクもありません。
また、公文書となるため、後の相続手続きもスムーズに行えるからです。
専門家も遺言の作成相談を受ければ、公正証書による遺言を勧めることも、公正証書遺言が増えている要因と思われます。
公正証書遺言作成の現場
公正証書遺言は後の親族間のトラブルを回避するために有効な手段です。
もっとも、その作成を言い出すのは誰かというと、実は財産を残す親ではなく、財産を譲り受ける側の子どもであることが多いのではないでしょうか。
専門家に相談されるのが、将来のトラブルを心配する子どもであることが多いというのも当然とも言えます。
親の財産に子どもが口出しするというのはおかしな話ではありますが、それが現実でもあるのです。
公証人役場では、作成依頼された遺言書の内容について、公証人から直接本人に、子どもは退席させられた上で意思確認がなされます。
この時、遺言書の内容について子どもに言われて作った、ということを公証人に話してしまう人も出てきます。
遺言書はあくまで財産を残す人の意思で作るものであり、本人から子供の意思で作ったと言われてしまうと、身も蓋もありません。
現実はそうであっても、公証人はそんなことを聞いてしまうと、立場上公正証書として遺言書を作成することができなくなってしまいます。
公正人役場に出向くときには、遺言書の内容について、親子の間で十分に意思を通じてからにするべきなのです。